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Your dream candidate is just around the corner.

第五夜/そば処かめや・新橋店

五回もコロッケそばについて書き続けていて、今更言うのもなんですが、それほど「コロッケそば」というものを美味しいとは思ってません。必要以上に美化するつもりもないんです。でも、そんな「コロッケそば」の中でも一二を争う美味しさなのでは?と思うのが今回ご紹介するお店です。最初に食べるべきコロッケそばか?それともコロッケそばのゴールとして食べるべきものか?ご一読後いただければ幸いです。

⚫︎そば処かめや・新橋店

立ち食いそばの本場といえば、新橋である。新宿という考え方もあるし、品川という人もいらっしゃると思うし、いやいや地方の寂れた駅前だっぺよ、と口角泡を飛ばして語る方もいらっしゃると思うけれども、極私的感覚でいえば、たぶん、新橋である。昼食代もままならぬが、腹が鳴るようでは得意先にも出向けねえというビジネスマンのランチとして。飲んだ後に締めで、部長、なんか小腹すきませんか?と立ち寄る一杯として。この街ほど、立ち食いそばが似合う街もないのだ。その証拠に、数多くの立ち食いそばのチェーン店がしのぎを削る激戦区である。選び放題の立ち食いそば天国、立ち食いそばランド、エレクトリカルパレードというわけだ。そんな中でも、以前から一目置いている立ち食いそばの店が、このかめやである。烏森口から徒歩1分。今回の語り口が「椎名誠」的な感じになってきているのは、そのあたりの影響なのだ。

店は狭く、綺麗とは言い難いので女性には抵抗があるだろうが、新橋にはお似合いの風情だ。この店は天玉そばの元祖も名乗っている。「天玉そば」!かき揚げに生卵という組み合わせは、立ち食いそば界ではマスカラス、ドスカラスのタッグに価する外れなしのタッグと言えよう。正直、コロッケそばなんかよりも、ずっと人気のメニューだ。その「元祖」なのだから(本当かどうか真偽のほどは知らないが)、ザ・立ち食いそば店の冠にふさわしい。また、「立ち食い」ではなく「立食(りっしょく)」と名乗っていたり、細かいことにこだわりがあるあたりも、どことなく新橋くさいではないか。そんなわけで、店の暖簾をくぐる時、気分はすっかり「くたびれた空腹ビジネスマン」なのである。イメージプレイは、足を踏み入れた瞬間からはじまっているのだ!実は、今回は訪れる前から、ある程度の保険がかかっていることは告白しておかねばなるまい。この店には以前に何度か来たことがあり、そのポテンシャルは承服済みなのだ。

麺は、富士そばに近いタイプの、そこそこ固めの(コシがある、などとは口が裂けても言わない)すっきりした感じで、モダンな雰囲気のあるそばだ。個人的に好感の持てるタイプである。さらにつゆは、他の立ち食いそばに比べれば塩分、甘みともに控えめで、かつお出汁を感じるバランスの良さ。このあたりの基礎力があるので、十分期待していいのだ。さて、肝心のコロッケはどうか。この店でコロッケそばを注文するのは初めてだったが、驚いたことにあの「箱根そば」(実質、コロッケそばの元祖)と同様の、カレーコロッケだ。むしろ、カレー風味は箱根そばより強めに感じる。箱根そばが口ひげのインド人なら、こちらはターバンを巻いたくらいのインド具合か。しかも、衣がちょっと厚めで、冷凍コロッケにしては珍しくカリッと固めに揚がっている。どろどろに溶けていくコロッケこそが、コロッケそばの醍醐味のひとつではあるのだが、単品のコロッケとして美味いのでむしろプラスポイントである。

多めにふりかけた七味と、つゆの相性は予定どおりのうまさだが、予想以上にこのコロッケはいい。じゃがいもの味わいもある。半分くらいまでは、カリッとした歯ごたえを感じつつ、そばをすするのと交互に家事ていくのが正しい食べ方ではないか。半分ほど食べ進んだところで、強引につゆにコロッケを溶かし始める。衣は残るが、中身がつゆを濁らせていく感じだ。思った通り、つゆにほんのりカレー風味が移り、これもまた美味い。食べていて「これは、ひょっとしてコロッケそばの頂点なのではないか?」とまで感じる、良いコロッケそばだった。腹が減っていたので、その感覚が果たして客観的、恒久的な判断なのかどうかは怪しいところだが・・・。さらに、コロッケそば340円という値段もいい。これまで食べた中でも最安値だ。まさに貧乏人の味方!総合力では、箱根そばを凌駕する。何度もいうが、立ち食いそばの魅力とは、美食的観点だけでなく、値段や、雰囲気、満足感なども含めたものだ。そういう意味で、「コロッケそば」に関わらず、立ち食いそば食べるなら、今季(来期なんてないけど)ベストの店だと判断したい。

店を出た後にコーヒーを飲んだ「プロント」(カフェチェーン)の隣り席では、大学出たてかと思える弁の立つあんちゃん二人が商談中だった。「ファンド」だの「バングラデッシュ」だの「投資」だの「グレーゾーン」だの、会話内容が香ばしい。こんな「意識高い(金儲けに関して)」だけの商談なんか、絶対にうまくいくはずがないのだぞ。と、説教したい気持ちでいっぱいになった。「お前らもコロッケそば食って、地に足のついた会話をしろ!」という言葉を飲み込みつつ、わしは次の仕事場へと向かうのであった。


 

住所:東京都港区新橋3丁目21-10

アクセス:JR新橋駅 烏森口 徒歩1分
 
TEL/03-3431-3592
 
営業時間/24時間
 
定休日/日・祝

コロッケそば 340円
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