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Your dream candidate is just around the corner.

第八夜/吉そば・渋谷店

いよいよ、コロッケそばのレポートも目指すゴール(十回)まで残り3回となった。ここ数回、店舗限定で紹介してきたの で、「そんなこと言われても、わざわざ遠出できないよ」という声も聞こえてきそうだ。そのとおり、コロッケそばは、遠出までして食べるものではない。そん なわけで、今回はここ最近都内に店舗を増やしてきたチェーン店「吉そば」を紹介しよう。

⚫︎吉そば・渋谷店

当たり前の話だけど、やっぱり「高い食べ物」と「安い食べ物」という二種類は存在する。美味しんぼや、ザ・シェフではないけれど、食べる人のことを考え、素 材を厳選し、高度な技と、手間暇をかけて作られるものは、やはりA級だ。その代わり「思い」や「技術」にはコストがかかるから、A級の食事をとるには「お 金」がかかる。手間を省き、適当な食材で素人が作ればコストは下がる。コストを下げた分、ひどい味にならないように、味を単純化する。しょっぱい、甘い、 辛い、なんてのがそのテクニックだ。繊細な味覚に訴えることはできないけれど、それはコストとのトレードオフだ。常に高額の美食を、時間をかけて食べるな んて事が、リアルではないからこその選択肢。これが、いわゆるB級の食べ物だ。ここでいう、A級とB級は、主に値段の差ではあるが(高いくせのにB級のシ ロモノを掴ませる店もあるけど)、これは優劣ではない。むしろ並列だ。時と場合と気分、経済状態によって、人には食べ物を選択する自由がある。世の中には いろんな幸せの形があるように、いろんな満足の形がある。誤解されると困るから、改めて書いておくけど、サッポロ一番は、ラーメンの代用品では、もはや、 ない。むしろ、代用品としてインスタントラーメンを食べる人がいたとしたら、それは「貧しい」。オレは、B級の食事とは、もうひとつの選択肢なのだと考え ている。

そこで、立ち食いそばを考えて見る。それもう確実に、蕎麦の代用品ではない。その証拠が「コロッケそば」なのだ。まともな「蕎麦」に「コロッケ」などミスマッチもはなはだしい。「コロッケそば」とは、「立ち食いそばがマトモな食べ物に決別を告げる」決意の証しなのである。

 

今日紹介するのは「吉そば」(きちそば、ではなく、よしそば、なので覚えておいて欲しい)というチェーン店がある。最近、都内に視点を増やしている。看板に は「天婦羅」「饂飩」「蕎麦」といった文言が添えられている。あたかも高級なものを食べさせそうな演出だ。富士そばや、箱根そばとは一線を画した「本格そ ば」的なラインを狙っている。この傾向は「小諸そば」や「ゆで太郎」「いわもとQ」といった「立ち食いなのにちゃんとしてる系」の流れで、立ち食いのトレ ンドでもある。確かに、そばとしてのクオリティは過去の立ち食いそばとは一線を画している。天婦羅はサクッとしているし、麺のコシにもこだわっている。 ちゃんと美味いのだ。問題はひとつ、それらの店には「コロッケそば」が置かれていない(笑)ところが、吉そばに はちゃんとコロッケそばがあるのだ。この割り切れないもどかしさ。中途半端さはいかがなものか?想像だが、それにはこのチェーン店の出自に理由があるので はないか?と思ってしまう。

吉そばは、音楽業界の関係者ならご存知、レコーディングスタジオの「NOAH」グループによる経営なのだ(さらに遡れば、不動 産会社なのだろうけど)。ミュージシャンなら横文字大好きだから「和食にコロッケ」という異物にも抵抗がないだろう。さらに、立地場所。音楽スタジオがあ りそうな場所に出店しているものだから、メニュー構築にあたって、若者(ようするに味音痴でもある)のセンスを取り込もうとしたこともうかがえる。かき揚 げや、ちくわ天といったおっさんくさい乗せ物より、コロッケの方がぐっとモダンだし、腹にもたまる。結果、吉そばは、本格を目指しつつ、お客の嗜好も取り 入れたいがゆえの中途半端な「立ち食いそば」なのだ。そして、そして、そこが素晴らしいのだ。VIVA吉そば。この店のそばは、独特だ。他店と一線を画していると書いたが、その良し悪しはもちろん好みによるだろう。独特のゴワゴワ感がある。よくある茹でそばのが柔ら かすぎて、という人には良いかもしれない。自分も、JR系列の妙ににゅるっとした食感のそばと比べればだいぶ上等なように感じる。つゆに関しても、ずいぶん美味しいと思う。店内にうやうやしく書かれている「かつお出汁が云々」も伊達ではない。自然な甘みと風味。調味料の甘みでごまかしたそばつゆも多いが、 この店のつゆは、一般の蕎麦屋で出てきても遜色のない甘みがある。つまり「そば」そのものの実力が高いのだ。

 

問題 はコロッケ!と箸をつければ、さらに驚く。大きさが普通なので気付かなかったが、分厚い。中をわるとグリーンピースや、細かい人参などミックスベジタブル が確認できる、いわゆる冷凍コロッケだが、ジャガイモの甘みが残っている。「上等な冷凍コロッケ」か。コロッケとしてソースをかけて食べても通用する、ま ともなコロッケだ。まともなそばに、まとも冷凍コロッケ。立ち食いそばの中では総合力の面で上位にくるべき優秀さだ。が!が、しかし!が、逆に!!コロッ ケそばとして、この方向性は正しいのか?という疑問もよぎる。なぜなら、この店には、サクッと揚げられた天ぷらがある。そちらも、そこそこまともにうまそ うだ。ならば、吉そばでは、そこそこの天ぷらそばを食べたほうがいいのではないか?いや、それならもうちょっと奮発して、まともな蕎麦屋で食べたほうが精 神的には健康的なのではないか?コロッケそばがうまいと、そんな気分になるところがまた不思議だ。そこそこうまかったのに、こんな苦情でしめくくられてしまうとは「吉そば」もつくづく気の毒だとは思う。しかし、隣客の食っている天ぷらそばが、羨ましくなっってしまったのだから仕方ない。

住所/東京都渋谷区道玄坂2-6-12

アクセス/京王電鉄井の頭線渋谷駅西口より徒歩1分

TEL/03-3496-2511

営業時間/24時間定

休日/無

コロッケそば:370円
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